まちを育むCSRレポート

多様な人材の就労を地域で支える:企業とNPOの連携事例と提案のヒント

Tags: 就労支援, 多様な人材, NPO連携, 企業CSR, 地域活性化

多様な人材の就労を地域で支える:企業とNPOの連携事例と提案のヒント

地域社会において、誰もがその能力を発揮し、働きがいを持って生活できる環境を整備することは重要な課題の一つです。ここでの「多様な人材」とは、高齢者、障害を持つ方、ひとり親、外国人住民、引きこもり経験者、非正規雇用の方など、さまざまな状況にある人々を含みます。こうした多様な方々の就労を支援し、地域での活躍を後押しするためには、地域に根ざしたNPOの活動と、企業の持つ経営資源や雇用創出力が連携することが有効です。

本記事では、企業が持つポテンシャルとNPOの専門性を組み合わせた、多様な人材の就労支援における連携事例を紹介し、地域課題解決のために企業との連携を模索するNPOの皆様への提案のヒントを探ります。

企業が持つリソースとNPOの専門性

企業は、雇用機会そのものに加え、施設・設備、従業員のスキルやノウハウ、研修プログラム、ネットワークなど、地域貢献に活かせる多岐にわたるリソースを持っています。特に、本業として事業活動を行う中で生まれる多様な業務や、新しい働き方への対応は、多様な人材の受け入れの可能性を広げます。

一方、NPOは、地域における多様な人材のニーズや特性に関する深い理解、対象者との信頼関係、個別の状況に応じた伴走支援のノウハウ、そして地域ネットワークを持っています。就労に関する課題は、スキル不足だけでなく、健康問題、人間関係、心理的なハードルなど複合的であることが多く、NPOはこうした複雑な課題に対して柔軟かつきめ細やかなサポートを提供することを得意としています。

企業が雇用機会やリソースを提供し、NPOが対象者の発掘、マッチング、就労準備支援、就労後の定着支援などを担うことで、単独では実現しにくい、多様な人材が地域で働き続けるための体制を構築することが可能になります。

連携による就労支援の事例と可能性

企業とNPOの連携による就労支援には、いくつかの形態やアプローチが考えられます。具体的な事例やモデルを通じて、その可能性を見ていきましょう。

1. 企業内での雇用創出とNPOによる伴走支援

企業が新たな業務を切り出したり、既存業務を再設計したりして、多様な働き方に対応した雇用機会を創出する取り組みは増えています。例えば、特定の部署での事務補助、清掃、軽作業などが考えられます。 このようなケースでNPOは、企業の採用要件と候補者のスキルや希望のマッチングを支援し、採用が決まった後も、職場環境への適応や人間関係構築に関する相談支援、必要に応じて企業側へのアドバイスなど、きめ細やかな伴走支援を行います。これにより、対象者の早期離職を防ぎ、企業にとっても安心して雇用を継続できる環境が生まれます。障害者雇用における就労移行支援事業所や就労継続支援事業所と企業の連携などがこのモデルに含まれます。

2. 地域における仕事づくりと企業の事業委託

NPOが地域資源を活用したり、住民のニーズに応えたりする中で、新たな仕事やコミュニティワークを創出する場合があります。例えば、高齢者による地域の見守りや軽作業、子育て支援のための託児サービス、地域特産品を活用した商品開発などが挙げられます。 企業は、これらのNPOが創出した仕事の一部を業務として委託する形で連携できます。自社の周辺地域の清掃業務をNPOに委託したり、社内向けの弁当製造を地域の高齢者グループに依頼したりすることが考えられます。これにより、企業は業務効率化を図りつつ地域での雇用創出に貢献でき、NPOは安定した仕事の供給源を得て、より多くの方に就労機会を提供できるようになります。

3. インターンシップや研修を通じたスキルアップ支援

企業の持つ専門的なスキルやノウハウ、あるいは研修プログラムを、多様な人材のスキルアップのために活用する連携です。例えば、IT企業がNPOと連携し、地域の若者や高齢者向けに基本的なPCスキル講座やプログラミング研修を提供することが考えられます。また、企業でのインターンシップや職場体験の機会を提供し、就労経験の少ない方のキャリア形成を支援することも有効です。特に、外国人留学生や難民申請者など、日本での就労経験が少ない方に対して、NPOが文化や言語のサポートを行いながら、企業での研修機会を設ける事例も見られます。

4. 企業のリソースを活用した相談・居場所づくり

直接的な雇用に繋がらなくても、企業が持つ遊休スペースをNPOの就労相談スペースとして提供したり、社員食堂の一部を地域住民との交流や情報交換の場として開放したりすることも、就労支援の間接的な支援となります。孤立しがちな人々にとって、安心して相談できる場所や、社会と繋がる機会を提供することは、就労への第一歩を踏み出す上で非常に重要です。企業の従業員がボランティアとして、相談対応やスキル指導に関わることも考えられます。

NPOからの企業への提案のポイント

多様な人材の就労支援において企業との連携を目指すNPOは、企業への提案時に以下の点を意識すると、より効果的な対話に繋がる可能性があります。

まとめ

多様な人材が地域で働く機会を得ることは、個人の尊厳やQOL(Quality Of Life)向上に繋がるだけでなく、地域の活力を高め、包容的な社会を築く上で不可欠です。企業が持つ経営資源と、NPOが持つ地域への深い理解や支援の専門性が連携することで、これまで仕事にアクセスしにくかった人々に対する、より効果的で継続的な就労支援が可能になります。

NPOが企業へ提案を行う際には、単なる資金提供のお願いではなく、地域課題解決という共通目標に向けた対等なパートナーシップの構築を目指し、企業の事業との関連性や連携による双方のメリットを具体的に示すことが重要です。今後も、地域社会の多様性を力に変えるための企業とNPOの連携事例が増えていくことが期待されます。